名所物見の旅 其の七拾肆:とんかつの極み!特選リブロース

文・写真:河辺雄二、FLEACT横須賀広報課

閑静な住宅街の一角にあるとんかつ屋「椿」。とんかつ好きなら知らぬ人はいない名店。(写真:河辺雄二、FLEACT横須賀広報課)

閑静な住宅街の一角にあるとんかつ屋「椿」。とんかつ好きなら知らぬ人はいない名店。(写真:河辺雄二、FLEACT横須賀広報課)

食いしん坊のわたしが長年気になっていたとんかつ屋があった。この店を知ったのはもう30年近く前になるだろうが、自分にはまったく縁のない場所にあるので、行く機会がないまま長い時間が過ぎてしまった。東京の中心部ならともかく、その店のある小田急線の成城学園前なんて駅に行く用事など、まるでなかった。

しかしチャンス到来、若い頃影響を受けた写真家・濱谷浩の生誕百年回顧展が世田谷美術館で開催されたので、見学後近くの国道から成城学園前行きのバスに乗り込んだ。

人気の「椿」に初めての挑戦

駅から徒歩6~7分、閑静な住宅街の中にお目当ての店「椿」はあった。開店直後だったが、すでに3台の駐車スペースはいっぱいで、そこへまた1台車がやってきて路上に止まり、ほかに駐車できるところを探している。なんともこの店の人気ぶりが窺える。

店に入るとテーブル席は埋まっているが、カウンターは先客が1人いるだけで、すぐ席に付くことができた。創業50年を越えるというこの店は、還暦をとうに過ぎたとみえる年季の入ったベテランの職人二人に、中堅一人、客係の女性二人が働いていて、客への対応もやさしくて申し分ない。

「椿」の特選リブロース。高温のラードで揚げてあり、かりっとした衣の中にジューシーで柔らかい肉の旨味が凝縮されている。(写真:河辺雄二、FLEACT横須賀広報課)

「椿」の特選リブロース。高温のラードで揚げてあり、かりっとした衣の中にジューシーで柔らかい肉の旨味が凝縮されている。(写真:河辺雄二、FLEACT横須賀広報課)

メニューを見ると、ヒレカツ2,000円、ロースカツ1,800円、ご飯の大300円、中250円、小200円、赤だしはナメコ320円、豆腐300円。また平日のランチメニューとしてロースカツ定食1,550円とヒレカツ定食1,750円がある。こちらはご飯と赤だしも付いているのでお値打ちメニューだ。

さてわたしはというと、かねてより食べてみたかった噂の特選リブロース2,700円を注文した。このメニューは数量限定なので必ずありつけるとは限らないが、開店直後なのでまだ充分用意があるという。わたしはとんかつ屋でヒレカツを注文することはほとんどなく、とんかつの本来の美味しさはロースにあると考えているが、特に最上級として供されるのはロース肉の特定の部位にあるようだ。

待つことしばし、運ばれてきた特選リブロースカツはかなりの大きさがある。狐色にしっかり揚がった色を見ると、高温のラードで揚げているのだろう。さっそく箸をつける。まずアンデスの岩塩を振りかけて食べてみる。肉がジューシーで柔らかく、旨味が凄い。これほどの肉の旨味を感じるとんかつは、そうあるものではない。カリッと揚がって、まったくしつこさは感じないし、ラードで揚げてあることが、より旨味を引き出しているようにも思う。特製ソースと芥子をつけてみると、よりいっそうトンカツの旨味が際立ってくる。ロース特有の脂身の部分も甘みを感じるほど美味しい。

ご飯も赤だしもよく、全体的にレベルの高さを感じさせた。他のメニューは食していないので総合評価はできないが、食いしん坊の人には、この特選リブロースのとんかつ、一度は試す価値あるものだとお勧めしたい。

「ぽん多本家」再訪

さてここで気になるのは、上野にある洋食屋の東の横綱「ぽん多本家」である。この店の創業は明治38年(1905)で100年を越える歴史がある。ずっと以前この店のカツレツを食べて、その美味しさに驚いた覚えがあるのだが、もう数十年も前のことですでにその記憶も薄れており、再訪して「椿」との違いを比べてみたくなった。

カツレツの生みの親といわれている「ぽん多」は、その昔「双葉」「蓬莱屋」とともに上野のとんかつ御三家といわれ、味も値段も東京にある並み居るとんかつ屋を圧倒していた時代があった。

御徒町駅から徒歩数分、洋食屋とは思えない重厚なドアを開けるとすぐに小奇麗な店内にカウンターと厨房が見える。この日わたしは落ち着いた雰囲気の二階テーブル席に通された。

上野の洋食屋の代表格「ぽん多本家」のカツレツ。低温でじっくり揚げるカツレツは薄い黄金色。肉はロースの芯の部分だけを使う贅沢なもの。ご飯、赤だしも秀逸。(写真:河辺雄二、FLEACT横須賀広報課)

上野の洋食屋の代表格「ぽん多本家」のカツレツ。低温でじっくり揚げるカツレツは薄い黄金色。肉はロースの芯の部分だけを使う贅沢なもの。ご飯、赤だしも秀逸。(写真:河辺雄二、FLEACT横須賀広報課)

「ぽん多本家」のメニューは、カツレツ(ロースカツ)2,700円、穴子フライ3,780円、キスフライ3,780円、小柱フライ3,780円、イカフライ2,700円、カキフライ2,700円。エビフライは時価。フライにあわせるご飯・赤だし・おしんこセットが540円。一般的にはかなり高めに感じられるが、東京のA級洋食屋としては他の有名店と比べてそれほど高い設定ではない。とんかつに限れば、「椿」の特選リブロースと「ぽん多本家」のカツレツは同じ値段で、両店とも厳選したロース肉を自信を持って供している自負が感じられる。

カツレツを待つ間、手持ち無沙汰なので、ビールを注文する。もちろん瓶ビールで、生ビールなんて置いてないところが老舗洋食屋らしいところ。お通しに出てきた穴子の煮付けがとても美味しい。これだけでかなり満足度が高い。

待つこと15分、お目当てのカツレツが運ばれてきた。薄い黄金色のあっさりとした揚げ色が懐かしい。低温でじっくり揚げているのが特徴で、狐色に揚がった「椿」のとんかつとはあきらかな違いがある。

「ぽん多」はとんかつ専門ではなく、海老や穴子、キスなど魚のフライが中心なので、使用する油もラードではないのだろう。一口食べると軽くサクッとした衣の中から驚くほど柔らかい上質な肉の旨味が広がる。なにしろロース肉の芯の部分だけを使用しているという贅沢なもので、脂身も取り除いてある。久しぶりに再会したこのカツレツ、やはり肉のレベルは半端なく高い。置いてあるソースはウスターソースで、この店のカツレツとの相性は悪くない。ご飯は茶碗によそられ、御代りすることもできる。キャベツは非常に細かく口の中で障らないほどの千切り、ナメコの赤だしも漬物も美味しく、さすがに老舗の伝統を感じさせさせる秀逸なもの。ご飯、赤だし、キャベツは「椿」より上だと思う。

さて、ではとんかつ自体はどちらに軍配をあげるか。わたしの個人的な好みからいえば、「椿」のリブロースのほうが、より心浮き立つ感激があった。もう上野御三家の時代は遠い昔の話で、伝統の味としては認めても、美味しいとんかつ屋さんも増えた現今、値段的に考えても何度も食すほどの魅力は感じられなかった。今度「ぽん多」へ行ったら、迷わず穴子やキスを注文しようと思うのだった。

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